富士フイルムホールディングスは医薬品の開発・販売会社の営業を4月1日から始めた。後発薬の販売から始め、将来は新薬開発を狙う。新薬開発は成功すれば大きな利益が見込める半面、内外の専業メーカーがしのぎを削り、M&A(合併・買収)も活発。古森重隆社長に戦略を聞いた。
――後発薬から参入した。
「後発薬の普及率は欧米で5割だが、日本は2割程度にとどまっている。国内ではフロンティアといえ、今から参入しても十分戦える。カギは品質管理だ。感光材分野では米イーストマン・コダックとの過酷な品質競争に打ち勝った。品質管理は自負しており、そのノウハウを生かす」
「具体的には原材料、製造工程、そして販売後の情報の品質管理を徹底する。グループ内で病院と診療所を結ぶ医療IT(情報技術)ネットワークシステムを展開しており、薬効、副作用などの情報を効率的に収集できる。これらの情報を生かした新しい販売手法も考えられる。薬効の確認は数百人の化合物解析の専門家の力を活用できる」
――販売はどうするか。
「国内は東邦ホールディングスの販売網を活用、海外販路は三菱商事と開拓する。これまでX線画像診断装置などの販売を通じ、医療機関との関係は深い。自前の医薬情報担当者(MR)を養成しながら既存のグローバル販売網も活用する」
――新薬開発で技術的な優位性は何か。
「物質をナノ(ナノは10億分の1)メートル単位に小さくし、制御できる技術だ。例えば、写真フィルムは20マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの厚さに、約100種類の化合物が薄膜で17層もコーティングされている。この精密制御技術は医薬品の専業メーカーにはない優位性といえ、薬の成分を体内の特定の患部に届ける仕組みに応用可能だ」
「新薬の開発は特定の薬効が期待できる化学物質を発見したり、合成したりする。保有する約20万種の有機化合物のライブラリーを医薬品開発に生かせるように研究を急がせている」
――医薬専業メーカーではM&Aを含め、新薬開発に向けた巨額投資が負担になっている。
「程度の問題だ。当社の年間の研究開発費は2000億円規模。収益源は液晶部材や事務機、医療機器などに多岐にわたっており、医薬品も新薬と同時に後発薬を手掛け、リスクを分散する。
M&Aについては既に富山化学工業を買収しており、現時点では切実なニーズはない。ただ、医薬業界の再編過程でチャンスがあれば可能性はある」
年80兆円といわれる医薬品の世界市場の中から富士フイルムは「勝てる分野」を選んでいる。サプリメント、X線画像診断装置から医薬品まで手を広げているように見えるが、費用対効果をはじいている。
古森社長がビジネスモデルとして意識するのは米ゼネラル・エレクトリック(GE)傘下のGEヘルスケアだ。医薬専業でなくても総合力で高収益を実現している。富士フイルムにとって「巨人を追い越せ」はコダック追撃以来の遺伝子。目標が定まったときの同社は強い。
引用元:2010/04/25 日本経済新聞
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